ALL IN生観戦感想
昨年9月、ALL INを観戦してきた。
米国のプロレス史を動かす歴史的な一夜なんて言われているCody&ヤングバックスによる興行『ALL IN』。実際に生で感じてきたわけだけど、まさにそんな興行だったと思う。
ではALL INの何が凄かったのか。何に感銘を受けたか。ちょっと長いけど、5つの項目に分けて話したいと思う。
・YouTubeで展開を進めるということ
まず凄いと思ったのがコレ。ALL INを開催するにあたって、the ELITEのメンバーたちはいくつかの他団体を意識したと思う。多分そのトップに来るのが業界No.1の団体・WWEだと思う。WWEより面白いコンテンツ作りを意識しただろう。そして、その次に来るのが業界No.2の新日本プロレス、あるいはROHやその他米インディー団体かなと。
ALL INという興行は、WWEで例えると、PPV大会に値する。『the ELITEによるビッグマッチ』≒『WWEによるPPV大会』。そう考えると、RAWやSMACK DOWN等のテレビ番組を利用して、PPV大会に向けたストーリーを進めていくWWEに対し、the ELITEはYouTubeでALL INまでのストーリーを展開したんだよね。コレは本当に凄い。もちろんWWEのPPV大会に比べたら会場規模は小さいし、WWEなんかRAWの会場にALL IN級のスケールの会場を使ってるわけである。それでも、非WWE系の米インディー村出身レスラー(Codyは違うけど)が主体となって行われた興行で10,000人以上の観客を集めたのは史上初の快挙だったわけで。
そしてコレはプロレス界のトレンドの先走りだなと。というのも、テレビよりYouTubeのほうが生活に身近だという人が増えているから。実際に僕が通ってる富山高専のクラスメート同士の会話においても、「昨日のテレビ見た?」より、「昨日の○○(YouTuber)の動画見た?」や「この△△(実況ゲーマー)の配信見た?」という話題のほうがよく聞こえてくる。「昨日のRAW見た?」感覚で、「昨日のBeing the ELITE見た?」って学校で話すようなプヲタキッズが今後少〜しずつ増えていくんだろう。
まあAEWもテレビ放送をするらしいし、ALL INの会場に子どもの姿はあまり見かけられなかったんだけど。
にしても、事ALL INという興行に関しては、Being the ELITEだけで補ったわけだからヤツらは凄い。
新日本がビッグマッチを毎回成功させてるのって、NJPWワールドやテレビの影響もあるけど、それよりも日々の地方巡業があるからである。
富山で初めて新日本の興行を見た少年が、今度は隣の県のアオーレ長岡に行って、今度は東京ドームに行ってみようとする。長岡の会場には新潟県民しかいないわけじゃない。ドームには都民だけが集まるんじゃない。
ALL INの会場には、ドイツから来たという二十歳の子もいたし、バンクーバーから来たという人もいたし、オハイオから車で6時間かけて来たというインスタのフォロワーさんもいた。僕も日本から行った。開催地のシカゴ在住のファンなんて少数だったと思う。つまり、the ELITEは新日本でいうところの地方巡業さえもYouTubeで補ったんだよね。凄いよ。
・「守られてない感」が生む米インディーレスラーロマン
ALL IN観戦後、僕は3人の外国人と一緒にホテルに帰った。どこから来たか忘れたけどとりあえず米在住の男と、バンクーバーから来た男と、ドイツから来た二十歳の少年。話をしていると、3人とも元々はWWEユニバースだったけど、WWEに飽きてきちゃった頃にBULLET CLUB(the ELITE)の存在をYouTubeで知り、どハマりしたらしい。彼らの何が魅力的なのか尋ねると、3人とも「とにかくカッコいい」と言っていた。
WWEに飽きたプロレスファンたちがthe ELITEのどこに惹かれたのか。「とにかくカッコいい」の「とにかく」にはどんなカッコいい要素が詰まっているのか。僕なりに考えて出た結論が「守られてない感が生むレスラーロマン」だった。
WWEはスケールが他団体とは比べものにならないくらいデカイ。ディナータイムのテレビ放送もそうだし、会場規模もそうだし、資金もそう。全てがデカイ。子どもの頃にWWEを見て育ったレスラーたちが米インディーのマットで大成して、満を持してWWEに入団するのもわかる。そりゃあレスラー側からするとWWEは夢の塊だろう。レスラー視点ではなく、ファン視点でも夢がある。「中邑真輔がロイヤルランブル優勝」なんてまさにそう。あれは日本のファンとして誇らしいことだったし、あの時レッスルマニアのメインで中邑がWWE王座を獲るところまで夢見たファンも多いことだろう。でも、WWEにはない種類のレスラーロマンを米インディーで戦うレスラーたちからは感じ取れる。
WWEは基本的に「他団体に出ることはダメ」という条件の下で選手と契約しているから、そこにはどうしても「守られてる感」が生まれてしまう。一方で、米インディーマットでは団体と選手間で専属契約なる契約が結ばれることはあまりない。つまり、ほとんどのレスラーがフリーランス、もしくは実質フリーランス(例:AEW所属選手はどの他団体に上がっても許される)である。フリーだからこそ「ネクストが保証されていない状況」が強く伝わってくる。「来月も食っていける保証がない」が強く伝わってくる。人ってパンクな生き方をしてる人に魅力を感じるもの。「与えられた試合をこなす」姿より「試合を与えてもらうために戦う」姿のほうが魅力的。実際に彼らの戦う姿を生で見てると、「また呼んでもらえるように、試合順に関係なく凄い試合をしてやろう」という一試合にかける意気込み・思いがダイレクトで伝わってくる。そこにはWWEにはない「守られてない感」が生むレスラーロマンがあるんだよね。
僕がALL INで見たバンディードなんてまさにそうだった。
バンディードは、ALL INの前々日と前日に新木場1st RINGをちょっとデカくしたくらいの規模のAAWの会場で、試合後に客席から大量のおひねりが飛ぶような試合をしていた。2試合とも負けたんだけど、誰よりも会場を湧かせていたのがバンディードだった。
そんな姿を見ただけに、ALL INのメインイベントに登場して、1万人の観客を湧かせている彼の姿を3階席から眺めていた時、グッとくるものがあった。己の体一つで夢を掴もうとしている姿がたまらなかった。メキシコ人だから尚更。
そして、そのレスラーロマンは、Codyやヤングバックスクラスのような人気レスラーにもある。いきなり「10,000人規模の会場で興行やります!」と言った時だって、成功する保証はなかったわけだし。
自分でアクションを起こして、自分で攻めていく・切り拓いていく姿が「カッコいい」んだよね。「守られてない感」が故のロマンが、米インディーマットと米インディーレスラーズにはある。
・会場と運営と規模
ALL INで地味に感動したのがビックリするほどの入場のスムーズさ。
ALL IN開場30分前の現地の様子。
— 高専 (@Kosen_Wrestling) 2018年10月11日
待機列は凄かったけど、めっちゃスムーズに入場できた。 pic.twitter.com/CktHTZUj1n
入場口からずっと奥にある駐車場近くまで長い待機列が続いていたけど、開場時間になると、5分ちょいほどで入場完了。昨年11月に新日本の大阪府立第一大会を観戦したけど、入場のスムーズさに関してはALL INのほうが圧倒的に優れていた。
さらに僕は特別席から観戦したんだけど、特別席の対応がメジャー級だった。特別席は10人一部屋の個室になっていて、洗面台に冷蔵庫がある。冷蔵庫の中にはキンキンに冷えたペプシとビールが入っている。
テレビ画面もあって、今行われてる試合をカメラ目線で見ることも可能。
ビールはまだ飲めないので僕はペプシ。
ちなみに僕がいた部屋の近くの部屋にはマコーレ・カルキンがいたらしい。マコーレ・カルキンとツーショットを撮ることができなかったのは、野毛の道場前で長州に声をかけられなかった中2の夏より悔しい。
しかしあの空間には圧巻だった。
・新日本プロレスだった
次に試合面。ケツ三試合は普通に好勝負だったし、第0試合のランブルではマルコ・スタントやジョーダン・グレースなどの凄いけどまだまだ知られてないインディーレスラーが1万人にお披露目される瞬間に立ち会えたし、素晴らしかったと思う。
でも中にはCody vs ニック・アルディスというソルティーマッチなんかもあった。Codyの試合なんか終盤は会場にいた僕の体感的には「ここホントにアメリカかよ?」って感じだったけど、Codyが勝った瞬間にその日一番の観客の歓声があった。勝ち方も勝つタイミングも「マジかよ…」だったし、どう考えても塩分高めだったけど、Codyが勝ったら「さっきスーン😒モード入りつつあったのにどうした?」というほど会場が大爆発。
でもこの『ビッグマッチのキーパーソンの試合が塩』と『会場の暑苦しいほど熱気・黄色くない声援』に僕の知らないあの頃の新日本が一瞬見えた。今の新日本のビッグマッチってスベったら終わりだし、人気者が勝とうと試合内容が塩分高けりゃそういう目で見られるけど、ALL INの客は完全にCody側についてたし、僕も僕で「つまんない」さえ楽しかったんだよね。
ALL INは「ニュージャパン」に見えるようで、「新日本」だったのかもしれない。
・マニアがジャンルを作る
さらに帰り道の話。バンクーバーの男が「ALL INはレッスルマニアを超えたよ!」と言った。心の中で「俺レッスルマニア生で見たことないから何とも言えないけど、それはWWE嫌いフィルター&エリート好きフィルターかかりすぎじゃね?」と思った。その後、ホテルに着いて、シャワーを浴び、いざ寝ようという時に男のその言葉を思い出した。そこで思った。「ジャンルってそういうことだよな」って。
プロレスって非ファンに薦めてもなかなか受け付けてもらえないし、日常でなかなか仲間に出会うことができないけど、会場に行けばちゃんとファンがいる。受け付けないカラダを持った人間もたくさんいるけど、そんななかなか世間に受け入れてもらえないジャンルを愛するファンの熱で続いてる。ALL INは素晴らしい興行だと思ったけど、僕の好みのどストライクな興行ではなかった。だけど、そのALL INをベスト興行と評価する人もいる。というかあの会場にいた人のほとんどがそう言ってるはず。the ELITE熱烈支持者が何万人もいたから、ALL INは成功したわけだし、マニアがジャンルを作るよなと思った。
木谷オーナーの言葉の真逆を言ってるわけだけど、あくまで僕の「マニア」の定義は、そのジャンルが大好きな人のこと。プロレスにハマってる時点で、新規だろうが、ファン歴30年だろうが、黙って見ようが、うるさ型だろうが、世間からするとプロレスマニア。プロレスファンなんて結局世間的には少数民族であって、知識があろうが、なかろうが、周りからすると「マニア」なんだよな…。
随分と長くなったけど、これらの他にも、会場近くのホテルで見かけたレイ・フェニックスの頭髪が寂しかった話とか、会場で琥珀うたとゼロ距離になったから、ホテルに帰ってから動画を見てみたけど、おちんが受け付けなかった話とか色々あるけど、それ以上でもそれ以下でもない話ばかりなので割愛!!
最後まで読んでくださってありがとうございました!